asadayori.html     ASAだより  
  へ戻る
   
2019/4/1 

   バラ園の母
               後藤 博
クリームイエローの花弁の先を
薄紅色に染めたバラ園のピース
大輪の姿に数々の物語を醸し出す

 バラはやはりピースが一番
 名花中の名花ね

剪定をしていた母の声が聞こえてくる
読書と吟行に満足し
身の丈の生活で充分といっていた母

木々の萌え出た若葉に追い越され
散ったピースの花びらが
春雨に軟らかに溶けて
菩薩のような声が聞こえてくる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 評 詩は切れ字作法にあり(守城) 

 2019/3/1

   恵
                  坂本日色
やわらかい雨が降りそそぐ
小川をぬらし 森をぬらし
アスファルトの道をぬらして
店をぬらし 近場の小学校をぬらし
街をぬらした

やわらかい雨はどこまでも降りそそぐ
ひしゃげた木に咲く
おおぶりな花にもふりそそぎ
その花の先から一粒のしずくが
私のひからびた唇に身を落とした

凝縮したいのちの水が
私の体の中をゆっくり対流する
真っ青な意識の中で薄く開かれる目
私は何もかも許されたことを知る
遠くでカエルの鳴き声がする
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
評 若いナイーブな感性! 守城
 

2019/2/1 

   心象風景
                   八代淳
故郷の海
沈む夕日は赤裸々に大きく楕円に撓み
残照を撒き散らし西海に没する

自然の営みに人は何故 西方浄土を観るか
南海の補陀落は藻屑となり
東海の蓬莱も泡の如く消えた

刹那も永劫も束の間に 惑わみ漂流い
苦界を泳ぎ 万里の波濤を越え
十万億土の岸に辿り着くのか

常世の奏では波音に打ち消され
闇が真理を支配する
暮れて尚 道は遠し
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
評 残照は他生の夜明けなり 守城 

2019/1/1 

  去年今年(こぞことし)
                小林守城
区切らなくては歳はとれぬ
たとえ「貫く棒の如きもの」でも *
無明の仕草が生きる姿勢を整える
枯れた枝草を集めた家の炉辺の場
焚火の炎に観入る年の瀬のひととき
貫く炎のようなことなのだ
心に浮かぶ年輪が消え去り
細々の人も消え去り
揺らぎ輝く焔の連鎖へ
歳をとると言うことは
年輪を消し去る炎の儀式だ

 * 去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子

2018/12/1 

   心
                  八代 淳
 雲間から射し込む光の青空
 スッとした人生の寒さが問うてくる
 空の端をそっと踏んで見上げれば
 「君は自分の心に反してないか」と

 神社の鈴音と賽銭の音
 チャラッとした響きは狸の宝石箱
 果たせない願望 口を閉ざす理不尽
 何時かの文字は無常の辞書にはない

 さっきの俺は過去の自分
 ボケッとしてもくる末の世の
 シナリオのページをめくれば

 其の一語 無常の辞書には確かにある
 スッとした青空に覗かれた心は問う
 「君は逃げ道を選ばなかったか」と

  評 無常の辞書を読破したのは仏です。
                     守城                                    

 2018/11/1


   風
            今宮町 駒橋きみ子
干し柿作りの老婆が
空を見遣りながら
「この風がいい」と
力をこめてさけんでいる

深い皺の顔
初冬の気配流れるなかを
風のなかでもこの風が
最上といいつづけている

風はその風味をもって
幸をもたらす
風の恵みを見分ける老婆

やがて白い粉をつけ
その家の軒下から店先に並ぶ
たくさんの風の干し柿

 

 2018/10/1


  夜更けの酒場で   
              八代 淳
「私の好きな文字は空、月、星よ」
乙女の微笑みとメドゥサの視線で
覗き込む女、その化粧が
四十路の時を超え、天の羽衣
ペガサスの翼を錯覚させる

「そんな陳腐なもの誰が信じるの」
フフッと鼻で笑い一蹴する女
掴まえようとしても捉まらない蝶
ヒラヒラ舞う無辺の空 虚空の月
満天の星は君の自由を投影する

「答えは束縛からの解放かい」
振り向くと女の姿は忽然と消えて
エーデルワイスのBGMが
いつまでも心に響く 朝霧の中で。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 評 豊かな文才に期待します〔守城)
 

 2018/9/1

   古希の戯れ言
           口粟野 八代恵美子
 古希を目前にして口さがない女の
 戯れ言と笑われてもかまわない
 消えかかる時の灯を再び
 燃やさねばなるまいと思う 
 テニスンの言葉を借りれば
 「私とはこれまでに出会ったもの
  すべての一部である」

 巡り会い過ぎ去る時のなかで
 両親・教師・友人らからの
 優しいことばや仕草に 
 いま生かされていることに
 少しでも報いていきたいと思う

 美しい自然に 正直に 再び
 戦争をしてはならない祖国を
 次の世代への永久の遺産に
 私は気合いを入れて街頭に立つ
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 評 戯れ言ではありません。守城
 



 

 2018/8/1

   雲雀
        天神町 金子タケコ

彼方の青空をすっぽり水鏡に映し
けたたましく囀る雲雀
声はすれども姿は見えぬ

くまなく探る針穴の動く一点
もどかしい人の眼
追随を許さぬ機敏の速さ

力強く上昇する美声の響きは
青空の彼方に消え やがて
黙して地上への急降下となる

巣の遙か彼方の地におり
雛の所在を隠す親雲雀の仕様は
その美声と共に心に残る
 
 評 生きる強さと優しさの発見ですね。
                   守城

 
 2018/7/1
 


   老いの恋文
            加園 小林守城

何年ぶりかの一家の帰省
五輪の紫陽花今年も咲いて
夜の団らんはずむ声

いつの間に少女となりし未來きて
夕焼けの美緒の海をみたくなり
錆びついた言葉だけれど
記憶の水脈(みお)を辿るがごとく

平和憲法 次の世代へ
気力のペ-ジはまだ吾に
全国署名を子らにも求めて
得意になって寂しくもあり

みおとみらい 呼び名はいつも
まぜっこに なってしまうことだけど
呆けではないのだ こやまごよ
  2018/6/1

  春雷
            口粟野 八代 淳
壁を震わせ大地の底に谺し
咆哮する雷鳴
窓を打ちたたく雹の雨
界雷前線わたる彼岸明けの夜

いくつになっても慣れることはない
いのちの再生を告げるといえ
雷神の怒りに怯え
しばし縮こまるだけしかない

亡者が結界を通り過ぎるとき
置き土産にするのは
地中に眠りをむさぼる
虫たちの目覚めだそうだ

彼岸と此岸の幽境の狭間を
どよめき流すのは春の息吹
畏れありがたく戴いた聖断のように
吼え去る亡者よ 安らぎたまえ

 評 希望はこうして生まれる(守城) 

  2018/5/1

   朝の出会い
           天神町 金子タケコ
長閑な春の朝の庭
振り向いて木陰を見ると
小さな耳をピンと立て
眼はパッチリ 口元突き出し
その顔は紛れもなく 狸さん!

交差点の側のわが家の庭に
どうしてどうしてどうしたの?
異常寒波の余波を受け 狸さん!
食べるものなきお山の事情
形振り構わずやってきたの?
孫何人もいる歳ならば
うれしくなって可愛くて
役所の一言「追い払え!」なんて
仕方ないけど言えないね
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
評 狸のナビには登録すみ。守城 
2018/4/1 

   弔辞 松本先生 さようなら
     県文芸家協会副会長 小林守城

那須野が原・小塙の庵は 松本会長の
一行の詩となる 文芸自裁の道だった
人は死して 天空に舞う微塵となり
一行の詩となれば 永久に生きる
那須を第二の故国とし 「野薔薇の道」を
小説・詩文に残した

* 韓国は血の故国たり吾を生みし
     野薔薇の記憶の今にかなしも
* 淡あはと己が宿命の地を見つつ
     堅香子の花瞑想に咲く
* ことごとにいじめの的に絞られて
     石もて追われ野を彷徨ひき
   返歌(守城)  (2/25)
 ごろすけほう数千年の鄙の逢い引き
       野薔薇の道のたばこ一服
 
 2018/3/1

  愚かもの
           見野 吉澤秀夫

愚か者とはどんな人
 その場の空気読めぬ人
 お金儲けのできぬ人
 組織で出世できぬ人
小さい小さいそんなこと

ほんとに愚かな輩とは
 戦争指導者 翼賛者
 原発ムラの推進者
 金の成る木であればいい
それを見て見ぬふりする輩

 ーーーーー やれうつな
蝿が手をすり足をする (一茶)
地球の涙が見えないか
いのちの悲鳴が聞こえぬか

評 深く全体を見つめている(守城)

 
 2018/2/1

  月命日
               東町 松永治子
 六月一五日は同僚看護師だった
 有美ちゃん・三四才の祥月命日
 三月一五日 自宅で意識を失ったまま
 年をとらない紫陽花の光と影になり
 あれから一〇年近く 退職後は毎月
 墓石の文字の笑顔に会いに行く
 墓地への階段や坂道はつらくなった
 私ばかりが老いて七変化

  風邪かなあー 私自身が受診する日に
  耳鼻科の待合室には母親に抱っこされ
  咳をしてぐずっている乳幼児がいたの
  「どうしたの」って声をかけたら
  泣きやんで有美ちゃん児のように
  バイバイの手を振っていたよ
 また行くからね 有美ちゃん
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  評 切なくも味わい深い (守城)
  

 
2018/1/1

  絵手紙
            見野 吉澤秀夫

 オイラは彼女にカボチャをあげた
 彼女はすぐさま絵手紙くれた

 裏には ほのぼのカボチャの絵
 表にゃ びっしり感謝のことば

 オイラはすっかり魅せられた
 彼女はほくほく食べてくれた

 オイラは四十路
 彼女は八十路

 オイラは今日も百姓仕事

  評・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    手塩にかけた作物も作品も
    生きる喜びです。  守城

 

 
2017/11/24
 


 鬼灯の母
        戸張町 柿沼しげ子
鬼灯の赤くなる時季が来ると
母の笑顔に会うことができる

鬼灯の中味をだして風船にし
鳴らそうとした幼きあの日

七面鳥のような顔をして
繰り返し母の口元をまねても

鳴らずの唾を飛ばしてばかり
苦笑いしたあの時の母の笑顔に

鬼灯の赤くなる時期が来ると
九〇を超えた今も女児になる

評 豊かな遠近法ですね。
  長寿の秘訣ですね。守城

2017/10/24


  梶又
        みなみ町 田村右品

旧南摩村字梶又
いまだダムの湖底にはならず
廃村のまま
家も人もよそに行き
みんなしあわせか

亡き妻との新婚生活
その僻地の小学校のとき
妻はまさとをみもごった
全校生四〇人の雪合戦
小川の山女魚 関白獅子舞
麻作り 炭作り

いまは峠の道陸神のように
亡き妻と二人むつまじく
風花の道にとこしえに座し
みんなは野仏のように思い巡らし

評 人はみな景色に生きる(守城)

 2017/9/24
 おたふく豆
          戸張町 柿沼しげ子
もぎり立ての蚕豆をむくと
白い産毛と笑窪の締まり
おたふく顔の産婦が出てくる

 一人こっそり食べてしまおう
 そんなわけにはいかないね
 おかめがお多福となったのは
 いつの頃からだろうかしら 

おかめひょっとこ連れだって
旅の思い出土産にと
対のお面を買ってきてから

いまは亡夫の影包み
ひょっとこおかめ連れ合って
長押の高みで和んでいるよ

評 言葉の力なんですね。(守城)
  
  2017/8/24

  義父(ちち)の涙  口粟野 八代恵美子
ある日 いつものように
言葉なく向き合った居間で
突然 嗚咽し号泣しだした
義父の姿を見た。
 今日なんだようーーー
 俺が仲間を殺してしまったのは・・・
カレンダーの日付を指で押しつけ
通信兵だった義父の間違いで
仲間を無惨に死なせてしまったことを
押し寄せる波のように繰り返した。

そのことがあってから間もなく
老いた義父は亡くなった。
生き残ってしまった悔いとともに
帰還した義父の戦争は終わった。
ついに泣き漏らすことになって
義父の無言の戦後も終わった。

このようにして 優しかった義父の
突然の姿を見てしまってからだ。
私たちの戦前が始まったのは。

評 厳粛に受け止めました。(小林)


 
 
  2017/7/24

 結い
        下遠部 相場栄子
むかし
わたしの住む地域では
田植えの時期になると
近所の人が何人もして
その作業を手伝いあっていた

何か温かく
ほのぼのとした空気が
幼かったわたしの躰の中に
満ちてゆくのを感じた

今日(いま)この精神(こころ)こそ
現代人が忘れてしまっている
大切な落とし物かもしれない

評 3.11以降の絆の再生は、
新たな結いではないでしょうか。
(守城)

 

 2017/6/24

   曲がり角
               東町 宮本千乃
「あの角までね」と言って
娘と手をつないで歩いた小径
梨の花が咲いていた
「じゃあね」と言って
曲がり角に少し寂しげなランドセルが
消えてゆくまで私は見送った

曲がり角の先は始まりの一歩
次にっどんな景色が広がるとしてしても
曲がり角の先には希望があると
そう言って娘を送り出した

梨の花の咲く小径
あの曲がり角は
今でも元気でいるかしら

 評 心配でもわが子の自立への願いがさらりと
 良く表現されている。 曲がり角の先はいつも
 希望でありますように。 (守城)

2017/5/24 
  花大根
      今宮町 駒橋きみ子

いつもより遅い春の暖かさ
裏庭に薄紫のダイコンの花が
楚々として優しく咲きました

沖を飛ぶ千鳥の音符
昔習った箏曲の女人の舞い
都落ちの人の目で追うわたし

ダイコンの名を負うても
食べるものではありません
じっと見つめるものです

評 ダイコンのはなだからこそ  
味わい深い優しさだ(守城)

   へ戻る